今日は、いわゆる「密約」の問題についてお話したいと思います。その後の国会審議なども経て、私なりに考えるところもあります。
まず、今回のこの「密約」問題の調査は、一部のメディアでは単に暴露しただけではないかという間違った報道がなされたりしていますが、もちろん、報告書をお読みいただき、私の記者会見などもご覧いただくとわかりますように、単に「こういうことをやってけしからん」ということでやったものではありません。
そして、私はこの「密約」の問題を勉強していくなかで、むしろ、当時の岸総理や佐藤総理の悩みや苦悩をうかがい知ることができたと思っています。
もちろん、「密約」により、いわば国民を欺いたことは事実ですから、全面的に肯定することはできません。しかし、当時の置かれた状況の中で、ぎりぎりの決断を迫られたということは言えると思います。
岸総理について言えば、例えば、改定日米安保条約の締結時に、朝鮮半島有事の際には、「事前協議制度」にしないという「密約」があったことが判明しました。「事前協議制度」を安保改定時に導入しながら、それに対する重大な例外を置いたということですので、一方でそれは、国民を欺くものであったと言うこともできると思います。
しかし他方で、「事前協議制度」を入れることが、いかに大変なことだったかということも考えなければならないと思います。
60年安保のときには、条約を結ぶか結ばないかというところで国論を二分して、大変大きな騒ぎになったわけです。そういう中で、岸総理としては、従来の安保条約があまりにも片務的で、日本がいわば一人前の国家として扱われていないというなかで、日本から米軍が発進したりするときには、日本政府に対して事前に協議する制度を取り入れようとしたわけです。
しかし、当時の日本とアメリカの力関係、そして朝鮮半島の状況――朝鮮戦争が終わってまだ7年しか経っていなかった――を考えたときに、朝鮮半島有事については例外だという「密約」を結ばざるを得なかった。
もし、この例外を結ばなければ、「事前協議制度」そのものを入れることができなかったかもしれません。そういうことを考えたときに、これはぎりぎりの決断だったという見方もできると思います。
佐藤総理も、「核の再持ち込み密約」ですが、これも「核抜き本土並み」と言って沖縄返還を実現したわけですから、罪は非常に重いと思います。
しかし、じゃあこの「密約」がなければ沖縄は返ってきただろうか。当時の沖縄は、まだベトナム戦争が続いていましたから、米軍にとっては非常に重要な存在であったことは間違いありません。
そして、朝鮮半島情勢も含めて、極東の不安定性の中で、「いざというときには核を再持ち込みすることもありうべし」でないと、沖縄は返ってこないという状況に置かれたときに、こういう「密約」ということになったのだと思います。
そこに、当時の佐藤総理の苦悩があったことは、少なくとも我々はわかっていなければならないと思います。その上で、この「密約」をどう考えるかは、人によってそれぞれの解釈がありうると思いますし、国民に正確なことを言わなかったり、あるいは欺いたことは事実ですが、それだけで片付けられない問題であると思います。
さて、国会審議をしていくなかで、私の発言が大きく取り上げられました。「鳩山内閣としては、非核三原則は守る、堅持する」ということは、何度も申し上げています。しかし、一時的な寄港が「持ち込み」にあたるという日本の解釈は従来から申し上げていますが、アメリカは一時的寄港は「持ち込み」にあたらないとしています。そこに考え方の違いがあることが、今回の「密約」調査で明確になりました。
91年に冷戦が終わってアメリカの核戦略も変わりましたので、戦術核については、日本に持ち込まれることはありません。艦船や飛行機には戦術核は積まれていないということですから、現実の問題は発生しないのですが、しかし、将来緊急事態が発生したときに、絶対にそれがないかというと、将来のことはわかりません。
アメリカの政策が変わる可能性もある。「そういうときにどうなのか」という問いが野党議員から投げかけられました。
私が答えたのは、「鳩山政権としては非核三原則を堅持する。しかし、将来の内閣まですべて縛ることはできない。日本の国、国民が重大な危機的な状況にあるときに、そういった問題が発生したとすれば、それはそのときの政権が、政権の命運をかけてどうするかと、つまり、非核三原則はあくまでも守るのか、それとも、一時的な寄港を認めるのか。それは、そのときの政権が判断するしかない」ということを申し上げたわけです。
別に非核三原則を軽んじるということではなくて、政治の責任を考えたときに、やはり、最後のぎりぎりの局面でどう判断するか。それは、そのときの政権、あるいは総理が全責任を負って決めることです。そして、そのことを国民にしっかりと説明し、場合によっては政治責任を取る――。こういうことだと思うからです。そのことをまず申し上げました。
もう1つは、社民党の議員から質問をいただき、非核三原則を法制化すべきだと言われました。それに対し私は、「『持ち込み』の中に、領海を通過することも持ち込みに当たると非核三原則で言っている。私は、その非核三原則堅持という考え方は、鳩山政権としては変えるつもりはないが、法制化するとなると2つ問題がある」と申し上げました。
1つは、当事国である日本の領海を船舶が通過する場合に、その船が核を積んでいるかいないかとかを日本政府が確認することが、国際法上許されるのかという問題があります。基本的には、領海であっても自由に通行する権利があるとなっています。
もう1つは、非核三原則は誰に対するものなのか。これはアメリカにたいするものだけなのかという問題があります。つまり、領海を通るということであれば、これは、アメリカ以外の核を保有している国の船舶も通っているわけです。そこに核があるかないかをどうやって確認するのか。アメリカは、先ほど言いましたように、政策的にそういったものがないということがはっきりしていますが、他の国については、そういったものは曖昧です。
そうすると、アメリカにだけそういった責任を負わせて、他の国についてはそれはわからないということで、きちんと法律になるのだろうかということを申し上げたところです。
こういう話も、いままであまり明確にされていなかった点ですが、そういった様々な問題について、政党の中で、あるいは国会で議論が深まることを、私は期待しているところです。
◎ いわゆる「密約」問題に関する調査結果(外務省HP)
→ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mitsuyaku/kekka.html
◎ いわゆる「密約」問題の調査について(外務省HP)
→ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mitsuyaku.html
※ブログの動画版はこちら
「戦術核については、日本に持ち込まれることはありません。艦船や飛行機には戦術核は積まれていないということですから」
岡田外相殿、どうやって調べたのでしょうか?
まさかアメリカ側の発表を鵜呑みにしているだけでは、密約時代となんら変りません。
また朝鮮戦争はまだ終わっていません。依然「停戦」のままです。
今回の記事にはいささか失望しました。
非核3原則は、法制化しなくとも従来の首相が言い続けてきた唯一の被爆国としての責務ではないでしょうか?。
「違法じゃなければいいんだ」とおっしゃっているように聞こえますが、いかがでしょうか?
今回の密約調査で結果的に、「非核3原則」がずいぶん軽いものにしてしまった。多額の国費を費やし、ホントに密約調査をする必要があったのでしょうか?。
歴代総理を参考人招致とか民主党内では騒いでおられたようですが、結局政局のためだったのでしょうか?
もう一度、密約調査の目的についてお考えを明らかにしていただきたく感じます。
投稿情報: makmek | 2010/03/18 23:25
岡田克也さま、スタッフの皆さま。こんばんは。お疲れ様です。
密約に対する、岡田さんの「バランス感覚」に驚きます。岡田さん、本当に頭が良いのですね(…羨ましいです)。
岡田さんは日本のお父さん。素晴らしい父性。
最近、憲法9条の第1項と第2項を読み直しました。…改めて「スゴい文章」と思いました。『戦争は嫌』とハッキリと言っていて。
岡田さん、週末になると疲労が出るような。大丈夫ですか?
みんなが休んで欲しいと言っても、休まないのが岡田さんですね。土日に海外に行かれるとか。どうか、お体に気をつけて。かしこ
投稿情報: 井上彩 | 2010/03/19 00:54
日曜日にいっぱいTVに出ていて、どんなお話が聞けるのか楽しみにしていたのに、時間が短くて、内容があまり伝わらないまま終わってしまっていました。ここにくればもっと詳しい事が分かると思って来ましたよ~!!
いろいろ深いですね。
当時、そうせざるを得なかったのかもしれませんが、やっぱりクリーンに政治をしないといけないと私は思います。国民と国を守る為とは言え、隠し続けられていたら、これからも続けるつもりだったのでしょうか?ひとつ嘘をつくと、その嘘を隠すためにまた嘘をつかなくてはならなくなります。その繰り返しで、どんどん国民と政府との溝がくっきりはっきりしてしまったんでしょうね。
溝を埋めて国民とぴったりくっついた政治を望みます。岡田外相が変えてください。
投稿情報: いいちこ | 2010/03/19 12:15
ヨーロッパには日本人が多く観光旅行に行きます。
現在のヨーロッパは平和です。特に西ヨーロッパには全く軍事的な危機感はありません。ロシア軍とNATO軍は20年近く緊張関係にありません。
しかし、極東では核大国中国は世界第二の軍事支出を行い、台湾への軍事侵攻の可能性を否定せず、北朝鮮は核爆弾の開発に成功し、さらに米国本土に達する長距離ミサイルを開発中です。また、ロシアと米国が直接向かい合っているのも極東です。
しかし、平和なヨーロッパに米軍は戦術核兵器を配備しています。
***以下引用***
全米科学者連盟によると、欧州に配備されている米国の戦術核はドイツ、ベルギー、オランダに各10~20個のほか、イタリア、トルコなど。
http://www.asahi.com/international/update/1105/TKY200911050473.html
***引用END***
つまり、いつ米軍が戦略を変更して、極東に戦術核を配備するかわかりません。そのような可能性は否定できません。
逆に、日本はアメリカに対して、ヨーロッパから全ての戦術核を撤去するように要求し、あわせて、極東には各配備をしないことを約束させることができれば、世界平和に貢献できることになります。
あるいは、中国や北朝鮮、ロシアと日本はもっと友好関係を深めて、中国や北朝鮮、ロシアにも核兵器の破棄を要求する必要があります。
米国だけ核兵器を破棄することはありませんから、中国や北朝鮮、ロシアに核廃絶を要求することは重要です。
平和な西ヨーロッパですら、米軍は核兵器を配備していますから、査察も検査もされない日本の基地に米軍の核兵器が通告なく持ち込まれる可能性は常にあります。
検証できない取り決めや、思い込み、相手国の正義感や好意に期待する外交ではなく、たとえ、一時的に日米関係が緊張しても核兵器については、正式な文書や覚書を取り交わす方がいいと思います。
軍事の問題は、兵士の生命がかかっていますから、在日米軍の将兵が、日本の防衛のためだけに、あるいは、日本の憲法、法律に縛られて、自分たちが必要と考える兵器や装備で妥協することは考えられません。
米軍の将兵は日本の防衛のために命をかけると言うのに、使用する兵器が制限されるなどということは受け入れられないはずです。
まあ、米軍の将兵に「日本防衛のために死んでくれ」という調子のよい安保条約が、何もかも日本の都合で運用できることはあり得ないでしょう。
核兵器があれば攻撃されず、死ぬことはないと思えば、米軍は日本に黙って(特殊な)核兵器を持ち込み、北朝鮮や中国軍にはそれとなく、その存在を誇示する可能性もあります。
やはり、米国だけ核兵器を破棄することはありませんから、中国や北朝鮮、ロシアに核廃絶を要求することが先決です。
外務省も、可能なら、岡田大臣が率先してヨーロッパや米軍本土の米軍戦術・戦略核兵器の配備状況などの視察を行うべきでしょう。
新非核三原則『米国・中国・ロシア・北朝鮮・韓国・台湾には核を作らせず、持たせず、持ち込ませず!!』
投稿情報: 一国民 | 2010/03/19 13:02
核兵器を持つことは、日本では無理ですね。
反発なんて話では済まないでしょう。
投稿情報: あ | 2010/03/19 19:20
密約の検証だけでなく、役所においての「資料」や仕事のあり方まで踏み込んで検討すべきです。
私の県の合同庁舎には様々な局が入ってますけど、本当によく仕事されてますね。
夜中の午前過ぎまで、電気がついているのがザラです。
世間では官僚批判が渦巻いてますが、本当に頭が下がる思いですよ。道すがら合同庁舎のビルを見ると、本当に思います。
資料の管理のあり方や仕事のあり方を改善し、労働条件やら仕事環境を改善して、少しでも国の機関から模範を示していくべきです。
投稿情報: くま | 2010/03/20 01:14
確かにこの密約問題については先人の悩みに思いをはせないで
安易に批判することは避けなければいけないと思います。(特に大平総理の悩みには胸がつまる思いがしました。)しかしながら国民の正しい情報を知る権利は、民主主義の根幹に関わることで
あって、これを単なる日米関係に悪影響を与える“暴露”であるとする一部のメディアの考え方には恐怖さえ感じます。
開発途上国の人と会話すると、“我国においては国民の政治的レベルが未だ低いので、国民にすべてをオープンに出来ない。リーダが国を引っ張ってゆかなければいけない。“との話しを聞くことがあります。それに対して
反論することは難しいのですが、一方、その様なことをやっていては何時まで経っても国民の政治的覚醒が高まらず民主主義の達成は覚束ない
と考えてしまいます。勿論、現在の日本の指導者がその様なことを言える立場には無い。国民は、正しい情報を知る権利があり、またその上で正しい判断をする為の努力をする義務があるのです。
(勿論、機密事項を否定する訳ではありません。)
戦後の安保と核の問題を考える時、所謂革新の人々の平和主義が果たして、国防の現実を真剣に考えた上での現実論であっただろうか、それとも安易な建前論だけであったのかは議論が分かれるところなのでしょう。いずれにせよ、やはり当時の自民党政府の方々は正面から国民に問題提起をすべきだった。当時はともかく現在においても、正確な情報提供の義務が認識されていないとすると、それこそ大問題だと思います。その意味において今回の件で、正面からこの問題に対して取り組まなければいけないのは、我々国民なのだと思います。
今回の岡田大臣の“偉業”により、外務省がよりオープンな良い組織になることを
期待しています。他の省庁(大いに不満があり)の方々も率先して、国民に対して
正しい情報の提供を行ってほしいと希望しています。民主主義国家においてもっとも
大切な行政の責務だと思うからです。
投稿情報: y浦野 | 2010/03/21 14:54
少し生意気な事言いますと、信念とは理屈を超えて、かたく思いこむ事とあります。しかし、人の感性はその人のそれまでの人生の中で育てられたものである以上、理屈を超えて思っている事は、その人の人生そのものなのだと思います。今回の調査をいかに吸収し、日本の民主主義を今の日本の状態をきちんと把握したうえで、いかに育てていくのかが、一番大切なことではないでしょうか。
投稿情報: baryon | 2010/03/24 03:49
「密約」報告書を読んで、色々な感想を持ち、それからまた少し日を置いてみて、「非核三原則」について、改めて自分はどういう風にとらえていて、昔から今に至るまでそれに変化はなかったか、と考えてみたり、家族にどう思っているのかと聞いてみたり、今現在、例えば中学生くらいの子どもたちはどういう風に認識しているのか知りたいと思ったりしました。
非核三原則の存在の持つ最も大きな意味は、核兵器の真の恐怖を唯一知りうる日本が、被爆者の方々の苦しみと共にそれを決して忘れず、核兵器を否定することの意志表明をすることにあると思います。
この重大な意味が、薄れることを恐れる気持ちは、共通して多くの人達が持っていると思います。ですから、非核三原則の法制化、という考えも出てくるのだと思いますが、法制化が将来実際どうなるのかは分かりませんが、まず、やはり最も重要なのは、非核三原則の持つ意義そのものが、断固として守られることにあると思います。
2月の岡田外務大臣訪豪の成果の一つである核軍縮・不拡散についての共同ステートメントをさらに検討したものを、23日に国連に提出されたとのことですが、「核兵器のない世界」を目指す中で、日本が従来通りの重要な役割を果たすためにも、非核三原則の重要な意味について、いろいろと、この機会に、日本中で多くの人達が話し合ったり考えたりするのは、とても重要なことだと思いました。
投稿情報: レイ | 2010/03/24 19:39
「密約」について、今回の一連のご活動やお考えを高く評価しています。
また、単にこの事実から時の政権の佐藤総理などを非難するのではなく、その苦渋にも思いをはせておられることに感銘を受けました。
若泉敬氏の「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」を、今一度読んでみて改めて当時のことに思いをはせました。
大臣にお願いがあるのですが、日韓条約のときの「竹島」の帰属について、「密約」というか、双方
の公にされなかった了解事項があるとのことは、幾つか書かれていますが、公にできることがあればご尽力いただけませんでしょうか。
どう考えても日本領である竹島の返還交渉に一石を投じる、大きな次のお仕事になるのではないかと思えてなりません。
突然ながら、お願いを書かせていただきました。
失礼をお詫びし、今後の活躍をお祈り申し上げます。
投稿情報: 鈴鹿賢一 | 2010/04/07 13:13
おはようございます。
東京地裁の歴史的判決は感動しました。
この際外務省の関係者全員しっかり絞りあげてくれますよね?
まさか控訴なんてしないですよね?
期待しています。
頑張ってください。
投稿情報: 風 | 2010/04/10 09:20
国民の生命と財産を守り残念ながら敵対する国が想定され国防上に関し同盟国間において密約があるのは当然と思います。
これらの密約に関しグレードを付け明確にオープン時期を設定する事です。
密約の内容の他経過と背景等どうしてその様な決断がされたのか理由を明確にする事により後世の人々に判断できる必要があります。
これにより当事者は良心の呵責にさいなまれる事無く責任を果たす事ができます。
例えば最高機密は100年などにし判断は時の首相が責任を持て指示し、これらの情報は暗号データ化し専門組織を作り
厳格に管理蓄積し時期によりオープン化します。是非民主党政権下で法制化し後世の人々の指針模範となる政治を宜しくお願い致します。
機密費も同じ様なオープン化時期を定め明細を組織として
管理する事によりでたらめな
使用が防げるものと思います。国立図書館の中に公文書管としてコンピュータ管理の下に小人数の組織を作り管理するようにします。
投稿情報: Web | 2010/04/10 23:52