今日は集団的自衛権の問題について少しお話をしたいと思います。
今日の新聞報道によりますと、官邸に集団的自衛権の問題についての有識者会議を設置して、安倍総理はこの問題の検討を進めるということです。
従来、勉強を進める必要があるということは国会で何度も答弁されてきましたが、おそらく内部の検討を経て、外部の有識者を招いて議論を本格化させるということだと思います。
集団的自衛権の問題はいろいろ難しい問題を含みますが、私はその中で、特に重大な問題があると思うのは、アメリカ本土、あるいはアメリカに向かって飛んでいるミサイル、基本的には大陸間弾道弾ということになりますが、それを日本のミサイル防衛で撃ち落とすということが検討テーマの1つとして挙げられていますが、このことが非常に気になっています。
この問題は、安倍総理がアメリカのメディアに対して、そういう問題も検討する必要があるということをお話しになっています。
私はこの問題を予算委員会で是非取り上げたいと思っていましたが、残念ながら、時間が十分ではなくて、そういう機会を得ることができませんでした。
では何が問題かということですが、1つはアメリカ本土あるいはハワイに向かって飛んでいくミサイルということになりますと、これは日本の上空を飛ぶのではないということです。基本的にもっと北を飛んでいくことになります。
そして同時に、その飛ぶ高さも、日本の領空というよりは、宇宙空間ということになると思います。
したがって、一般に言われるような、日本の領空を侵すミサイルを撃ち落とすということではなくて、日本の領空外のミサイルを日本から撃ち落とすということになるわけです。
現在の技術ではこれはできませんし、日本を守るためのミサイル防衛では、そういった領空のさらに高度を飛ぶようなミサイルを撃ち落とす能力はありませんから、それ専用の技術を開発して、そして、それ専用のミサイル防衛システムを導入することになります。
最も問題なのは、日本の領空内ではない、そして日本を狙っているわけでももちろんない、同盟国アメリカを狙っているミサイル、これを撃ち落とすということは、もちろん同盟関係を強化するために必要であるという議論が一方であるわけですが、まず日米安保条約からは外れる話になります。
つまり、日本自身の平和と安全、あるいは極東の平和と安全、そういうことには該当しませんから、もしそういうことで、集団的自衛権の名の下にアメリカ本土あるいはハワイに行くミサイルを撃ち落とすということになれば、日米安保条約以外のところでその根拠を求めなければならなくなります。
あるいは、日米安保そのものを改定しなければいけなくなるということです。新たな根拠が必要になるということですね。
そして、もう1つは、結局そこまでいくということであれば、世界のどこであっても、日本とアメリカが協力して武力行使をする、自衛権を発動するということを認めることとほぼ変わらないということになると思います。
集団的自衛権は必要であるという論者も、その多くは、日本の平和と安全に直接関係する場合に集団的自衛権の行使を認めるべきだという考え方であって、「世界のどこでも」とか「日本と関係なくアメリカ本土を守るために」という論者は実はそう多くはないのではないかと私は思っています。
しかし、今回のアメリカ本土を目指すミサイルを撃ち落とすという集団的自衛権は、「世界のどこでも」とほぼ同義であると、そういう大きな問題をはらんでいるということを申し上げておきたいと思います。
安倍氏はなぜ、「集団的自衛権の行使」について、可能な範囲や場面の選択、限定などという順序立てた説明を発信せずに、一足飛びに「集団的自衛権の乱行」という概念を浸透させようとしているのでしょうか。
集団的自衛権の乱行は、(私の考えと致しましては)日米の同盟関係を強化させるというよりも、安全保障上ではむしろ逆に、もっと直接的な意味で、日米安保条約の存在意義を薄れさせてしまうというものであると同時に、結果的に日本のトンデモ行動に発展しかねないという側面を含むものであると思います。
ひいては、ここに位置する日本の安全保障が将来的に行き場所を失い、混迷を極めるのではないかという懸念を生じさせる問題であると思います。
そして、日米安保以外のところに根拠を求める、あるいは新しい根拠が必要になるということですが、無理であろうかと私には思われます。
根拠をこじつけようとすると、これは大義を侵しかねない。ですから安倍氏には、トンデモ論に突っ走ってしまわないようにだけは気を付けていただきたいのです。
投稿情報: 小原 | 2007/04/09 16:57
心待ちにしていた安倍総理の発言。
21日付新聞夕刊にて。
(慰安婦問題についての謝罪と責任を明確にされたという記事より、文章単位で抜粋。)
また、近く開始する集団的自衛権の研究は、日米同盟強化による中国の軍事費増大への対応が念頭にあることを明らかにした。
(中略)
一方、安倍首相は中国の軍事費増大について「日本は中国に合わせて軍事費を増やそうとは考えていない。しかし、日米同盟をより効率的に、より強化していく必要がある」と指摘。
そのうえで「憲法との関係においても、そのための研究をしなければならない。集団的自衛権の行使についての研究だ」と語り、研究自体が中国を念頭に置いていることを示した。
また、「世界に貢献するために何をするかという観点から、(憲法の)解釈を研究していきたい」と述べ、行使を禁じている政府の憲法解釈の変更も視野に入れていることを明らかにした。
(以上)
訪米を間近に控えているがゆえの後付け的な説明のようにもうかがえるが、活字で見た限り、初めてきちっと重要事項に言及している。
日米同盟についてのはっきりとした方針。利用主義を思わせるかのような表現の拙さはあるが、相当な意思表示となっている。「より効率的に、より強化していく必要」も、日米関係におけるあとさきの運びへのお考えがあってのことなのだろうと思いたい。
しかし一方で、中国に対して、あからさまな対立構図を打ち出しすぎてはいないか。今の段階でのこの中国念頭発言は、外交勢力図の浮き上がらせ方が時期尚早すぎやしないだろうか。
ここ暫くの日中友好ムードと、ほぼ同時に進行させようとしている必要以上な敵視政策(と解釈をされかねない)。今後どうバランスをとっていかれるのだろうか。至難の業であると思われる。なぜ、自ら再び困難を招きかねない物言いをなさるのでしょうか。
対中関係において、経済に力点を置き再び政治は置き去りなっても、ととられても仕方がない姿勢を露骨に表すのは、さじ加減とやらを知らない私などから見ても、良いことではないと思う。
目先の事柄(来訪や訪問)ばかりにあまりに極端に気をとられすぎて、支離滅裂なメッセージを振りまくのではなく、日本としての、ここなのだという主張と、確固たる位置づけをいつも持っておく必要があると思う。
民主主義国に生きる人間としての当然の知る権利なのですが、総理大臣からの久々の方針説明は、内容はさておき、とてもうれしかったです。
投稿情報: 小原 | 2007/04/22 17:09
防衛省や自衛隊が、北朝鮮への監視をどのように行っていて、また北朝鮮の軍事的異変や有事の兆候があった場合にどう行動することになっているか、というのは、日本の一般国民にも知りえない機密事項ではないか、と思いますが、いかがでしょうか。仮に北朝鮮が米国に向けてミサイルを発射した場合に自衛隊がとるべき対応策というものも、今後決まったところで公表はされないと思いますが、いかがでしょうか。
投稿情報: TM | 2007/05/07 02:46
前から、気になっていたのですが、日米安保条約は片務条約と、聞いていたのですが、いつから双務条約になったのですか?
戦争は外交の延長だと、有名言葉がありますが、核を持つ時代に此の言葉が通用するのですか?
戦争に行かない人達、戦争でも死なない特権階級の人達が戦い声を大にして叫ぶのはなぜなのか?
投稿情報: 中村 清直 | 2007/05/19 08:41
柳井氏とか言う外交官上がりが、威勢のよいことをいっていますが、ほんとにおかしいですね。外交の無策の尻拭いを自衛隊に求めて、責任転換していると思うのです。武器製造はお金になるからといって、平和産業の日本の伝統を壊されたくありません。
安倍総理が壊そうしているのは、日本の戦後のよき伝統です。岡田先生の説明よくわかりました。日米安保条約から外れるというのは、知りませんでした。確かに、日本と極東の平和とは例のミサイル問題は関係ない。やはり、今の自民党は妙です。はやく、民主党政権とってほしいです。
投稿情報: 都民 | 2007/07/18 15:59